暮らし方に寄り添った
家づくりがもたらす
変わらぬ日々のリズム
Kitchen house
札幌市厚別区・Tさん&Nさん宅
夫婦50代
柏やナナカマド、白樺、ヒメリンゴにヤマザクラ。厚別区の緑地に隣接するこの場所で、大きな窓から美しい木々を眺めるTさんご夫妻の暮らしは、15年目を迎えます。
Tさんご夫妻の家づくりは、何を大切にして暮らしているのか、ということを見つめ直すことから始まりました。「結婚して10年近く経ってからの家づくりだったので、夫婦の暮らし方のリズムや好みはほとんど固まっていたんです」と奥さん。家づくりをお願いしたm+oの湊谷さんは、奥さんの幼なじみ。「中札内の美術館に、湊谷さんを連れて行ったこともありました。そこは中に入ると柏の林が見える横長の大きな窓があるんです。私、こういう家に住みたいの!って」と笑顔で振り返ります。
緑を見ながら暮らしたいという希望や、読書が好きなこと、趣味で集めている和骨董の話など、具体的な間取りよりも、夫婦が好きなもの・ことを伝えていきました。Tさんご夫妻がもっとも大切にしていたのが、毎日料理を「つくり」「食べる」ということ。このかけがえのない日々の習慣を、居心地のよい空間で過ごせるようにプランが組み立てられました。
スキップフロアの寝室で目覚めると、視線の先に広がる豊かな緑。家の中央に設けられたダイニング・キッチンは、大開口からの景色が謳歌できる住まいの特等席です。週末になると、奥さんは庭の花を生けて部屋に飾り、Tさんはいつもより少しだけ手の込んだ料理をこしらえます。「僕らの暮らし方に寄り添った家なので、大きな変化もなく快適な毎日を繰り返しています。15年経った今も家で過ごすのが一番楽しいです」と笑うTさん。ご夫婦の暮らし方のリズムに乗せてつくられた住まいは、変わらぬ快適な時間を刻み続けています。(Report by Replan)
豊かな木々が生い茂る南西側。Tさんご夫妻はこの景色に惹かれ、この地で暮らすことを決意した
吹き抜けのダイニングは、縦につながる大開口からの緑が暮らしを豊かにする。料理をしたり、会話をしたり、夫婦の時間は穏やかに流れる
窓辺のこの一角は、奥さんが書き物をしたり、仕事をする場所。「視界の端に緑が見えて、小窓を開ければ頭上を風が抜けていきます。とても心地よくて、作業が捗るんですよ」
料理をつくり、食べることを大切にしているTさんご夫妻の暮らしの主役はキッチン。「住まいの中央にキッチンがあるって、とても新鮮ですよね。初めてプランを見せられた時、驚いたけれど、これしかないと確信しました」と奥さん
- 設計者より -
15年前、森の側で庭を作り、好きなものに囲まれながら生活したいというお施主さんの夢から、この家ができました。
要望はいたってシンプルです。夫婦二人でその日の食事や常備菜を作ることのできるキッチン、好きな雑貨や和骨董に囲まれた空間、大好きなガーデニングができる広いお庭。それら毎日の生活を自然を背景にしながら送りたい・・・「まるで中札内美術村のギャラリーから見える柏林のように」。
約2年かけて探した土地は、青葉緑地に面した普通の住宅街ですが、山桜・姫リンゴ・ナナカマド・柳・白樺など四季折々に変化する木々と斜面のふもとを流れる沢があり、この自然の存在感は圧倒的です。周囲の住宅街の存在を消しつつ、家のどこからでも緑と自然を感じられるように設計を進めました。
10年、15年それ以上経つと、家族の人数や生活サイクルが変わることは当然なので、最初にお施主さんと良く話をしながら将来を踏まえた設計を心掛けます。でも、家族個々のライフスタイルが変わり思惑どおりにいかないこともありますし、使い勝手によっては傷み具合が予想とは違ってしまうこともあるので、プチリフォームやメンテナンスを施しながら、家はお施主さんに大切にされて更に成長していくものだと思っています。
この家は夫婦二人だけの家なので家族の変化はありませんが、年を重ねるごとに少しずつ趣味が増えてお部屋の彩が加わったり、それに合わせた模様替えやちょっとしたお手製の家具も備わっています。そこそこの年月が経ちましたから、メンテナンスとして外壁の塗装替えや木部のケアなどを行いました。手を加えながらずっとお家を大切にして生活を楽しんで暮らしています。それが何年経っても変わらない、この家のこだわりだと思っています。 (文/湊谷 みち代)
奥さんが独身時代より集め大切にしていた和骨董が、住まいに深みを与えてくれる
週末は庭の花を生けて、室内に飾ることを趣味にしていると奥さん。「生けたものを撮影して、自作のカレンダーにしたりして楽しんでいます。至福のひと時ですね」
寝室はスキップフロア。大開口との視線の高さを合わせ、ベッドからも緑が見えるようにした
「祖父の暮らしていた家の玄関の三和土をイメージし、石を埋め込んでもらいました」と奥さん
緑地を望む大窓に面したダイニングのこの席は、ご主人のお気に入りの場所。庭で育てている葉物やベリー類は料理のあしらいに活用している
住まいの北東側は道路に面しているため、大きな開口を設けず周囲の視線を気にせず暮らせるように配慮した
構造規模/木造(在来工法)・2階建て
延床面積/94.46㎡(約28坪)(車庫含まず)
<主な外部仕上げ>
屋根・外壁/ガルバリウム鋼板、建具/玄関ドア:木製製作ドア、窓:木製サッシ 一部樹脂サッシ
<主な内部仕上げ>
床/ナラフローリング、壁・天井/ビニールクロス
<暖房方式>
蓄熱式暖房機
Replan北海道vol.126掲載